軽トラックと4WD方式

 ひとくちに4WDといっても、いろいろなタイプがあります。まず、大雑把に分けると3種類です。
注:ベースになった2WD車の駆動輪を「主駆動輪」、追加された方を「補助駆動輪」と表記します(勝手に造語)。軽トラックの場合は、主駆動輪が後で補助駆動輪が前です。FF(前輪駆動)ベースの場合は逆になります。

○パートタイム4WD
 ふだんは完全に前輪駆動か後輪駆動、必要な時だけ運転席のスイッチで4WDになる方式です。
○フルタイム4WD
 基本的に常時4輪駆動。自動的に前輪と後輪の駆動力を分配するシステムがついている方式です。
○スタンバイ型4WD
 ホンダのデュアルポンプ式リアルタイム4WDなど、ふだんは完全に前輪駆動(または後輪駆動)でありながら、主駆動輪が滑った時に自動的に必要な分だけ補助駆動輪に力が伝わる方式です。

 このうち、フルタイム4WDにはいくつかの方式があります。
○直結4WD
 模型のミニ4駆のように、前後が直結しているもの。大昔は常時直結4WDの車もありましたが、現在はパートタイム4WD車の4WD状態を指す言葉になります。
○センターデフ型
 前後の回転差(内輪)を吸収するデファレンシャルギアー「センターデフ」があるタイプ。センターデフがフリーだと、理論上1輪滑ると立ち往生してしまうため、センターデフロックスイッチ(手動)や、ビスカスカップリング(自動)などで制御します。主に大型車、ハイパワー車に使われます。
○カップリング型
 ビスカスカップリングなどの自動クラッチを使って、補助駆動輪に伝わる力を自動的にコントロールするもので、軽〜小型車に多く使われています。自動クラッチはONかOFFかではなく、主駆動輪100%近くから、前後50:50%までアナログ的に変化します。
 また、ダイハツのアトレーに使われているカップリングは、50:50になった時にロックアップして、直結4WDになるシステムです。

 いずれにしても、その区分はあやふやなものです。カップリング型はスタンバイ型のひとつに数えられることもありますし、スタンバイ型をフルタイム4WDに数える場合もあります。また、三菱の「スーパーセレクト4WD」など、フルタイム4WDでありながら、任意に2WDにできるものもあります。

 では、軽トラックには何が使われているかというと、ホンダアクティの全車とスバルサンバーのオートマチック車はビスカスカップリング式フルタイム4WD、それ以外の車はパートタイム4WDとなっています。
 なお、兄弟車の商用バンは各社トラックの4WD方式に準じますが、ワゴン車ではほとんどの車にフルタイム4WDが設定されています。特にターボ・スーパーチャージャー車は全てフルタイム4WDになりました。

 パートタイム4WD車では、2WD状態でも補助駆動輪のギアーやシャフト類が回転し、ロスになってしまい、2WD車より燃費が悪くなってしまいます。(2WD車より燃費が悪いのはフルタイム4WD車でも同じことですが・・)

 そこでスズキキャリイ、三菱ミニキャブ、ダイハツハイゼットに4WDが出た当初は、「フリーハブ」というものが付いていました。
 これは補助駆動輪のホイールの中心に付いている手動のクラッチで、ふだん2WD状態でフリーにしておけば、補助駆動輪の回転部分が休まるというシステムです。
 つまり、このタイプの4WD車は、4WDにする時には一旦車から降りて、左右のフリーハブをオンにしてから、4WDスイッチを入れなければいけなかったのです。
 お父さんは納車の時にセールスマンから聞いたものの、機械音痴のお母さんはイマイチ理解できず、4WDに入れたのに進まない・・という事態も発生し、結局、頻繁に4WDにする農家は、面倒くさくてフリーハブはオンのまま・・というのがオチでした。

 次に出てきたのが、三菱ミニキャブに付いていた「オートハブ」です。これは4WDにする時は、一旦停止して4WDスイッチを入れ、走り出せば自動でフリーハブがオンになり、2WDにする時は、一旦停止して4WDスイッチを切り、数メートルバックすればフリーハブがオフになるというシステムです。
 これも4WDにするのが面倒で、動作も不確実という評判がありました。

 そこで開発されたのが「アクスルクラッチ」システムです。補助駆動輪の左右両方切断しなくても、どちらか一方を切断すれば、補助駆動輪のデフは空転しますが、その先の駆動系が休まるというもの。スズキキャリイとダイハツハイゼットに採用されていました。
 初期のものはスイッチひとつでアクスルクラッチオンになり、次に4WDスイッチをオンにするというシステムでしたが、このシステムをよく理解しておらず、またまた「4WDに入れたのにちっとも進まない」というトンチンカンな事態が多発して、4WDスイッチと連動化されました。

 現在では、パートタイム4WD車でも、「走行中に4WD、2WDが切り替えられる」シンプルなシステムに落ち着いたようです。

 フルタイム4WDは燃費が悪いとよく言われますが、各社の10.15モードを比較する限り特に差はありません。また、一時期JAサンバーのMT車で、フルタイムかパートタイムか選べる時期がありましたが、カタログ値はまったく同一でした。2001年春の雑誌の比較テストでは、唯一フルタイム4WDのアクティ4WDが一番の燃費を出していました。

 ビスカスカップリングでは完全に4WDに入らなくて、駆動力が不安ということもよく聞きます。これに関しても、フルタイム歴16年の私の経験としては、タイヤの限界の方が先に来るので、農家でのオフロードの範囲では、あまり問題はないと思います。550ccストリートで最低地上高まで泥に沈んでしまったことがあるのですが、自力脱出してしまいました。
アクティの場合、デフロック付きのアタックであれば、パートタイム4WDでデフロックなしの車よりは信頼できます。
もちろん、もっとハードなオフローディングでは問題も出てくるようですが、現在はそこまで行くタイヤがあまりないようです。

 そしてもうひとつ。カップリング式では4WDになるまでタイムラグがあるという意見もあります。しかし、私がアクティ4WDに乗ってきた限りでは、ふだんもわずかに前輪に駆動力がかかっていますし、FFベースで燃費優先のデュアルポンプ式はもちろん、他のFFベースのカップリング式に比べても、後輪駆動ベースのカップリング式はタイムラグがずっと少なく、実用上もほとんど問題はないと感じます。
 むしろパートタイム4WDの方が前後の回転が一致するまで「待つ」システムがあり、欲しい時にすぐ4WDにならなくて焦ることがあります。
 ここから先は安定運転志向の私の意見です。
 私は、後輪にかかる加重が軽く、タイヤもサスペンションもプアーで、いとも簡単に後輪が空転するトラックの欠点をフルタイム4WDでカバーしたホンダの姿勢を支持したいです。
 例えば一見何ともない道路に見えて、日陰や橋の部分だけ凍結しているという場合、パートタイム4WD車では2WDで走行中、突然スリップして焦ったこともあります。フルタイム4WDの場合は絶対安全とはいえませんが、挙動は穏やかだと感じます。
 勿論、限界が高い分限界を超えた時は怖い・・というのは4WD車の共通の特性ですから、無理はできません。
 また、2WD状態では内側後輪が浮いて失速、かといって直結4WDでオンロードを走るとパワーロスが出て、メカも傷みやすくなる。こういうことがよくあります。
 田んぼの入り口を使ってUターンする場面でも、パートタイム4WDだと2WD状態では草や泥で空転、4WD状態だとタイトコーナーブレーキング現象が出て、特にロングホイールベース、パワステなし車だと最小回転半径が無意味なことになってしまうことがあります。実際最小回転半径3.8mのパートタイム4WD車より、4.6mの初期型アクティの方が一発で曲がれることもよくあります。

 そこで提案なのですが、パートタイム4WD車にカップリングを追加してはいかがでしょうか?
 ふだんはフルタイム4WDとして。燃費が気になる時や、走りを楽しむ時は後輪駆動。雨の日など、ちょっとでもコンディションが悪いと、気兼ねなく4WDに入れられる。そして駆動力が気になる人のために、カップリングにはロックアップが付いていれば完璧ではないでしょうか?
 過去には、旧規格エブリイの最終型がまさにこの4WDシステムで、ダイハツアトレーもこれに近いシステム(センターデフ式でした)を採用していました。
 とはいえ、いくらでも安い方が売れる軽トラックメーカーがこんな複雑なシステムを搭載してくれるとは思えません。
 素人考えですが、キャリイとサンバーは、兄弟車にカップリング式4WD車があります。このセンターシャフトをそっくり移植すれば、ロックアップこそ付かないものの、理想の4WD方式になるのではないでしょうか?
 誰か実際に可能かどうか調べてみませんか?



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